2009年7月1日水曜日

船乗りだったころ

・・・・・・っということで、飲み会まで時間があったので、途中の浜松町で降りて竹芝桟橋に向かった。

私は30数年前も、この道を何度か往復した。

そのときは、ゴロゴロと大きなトランクを転がして。

トランクの中身は、これから数ヶ月を海の上で過ごすための衣類が殆ど。

桟橋に係留された白い船体の船名を見て、自分の乗る船と確認する。

割り当てられた部屋のボンク(二段ベッド)に転がり込んで、これからの航海について考えをめぐらす。

「これでいいんだろうかと。」

海の上の生活も数年が過ぎていたが、海の上での生活が自分に合っていないことを、早い時点で気付いていた。

もうそのときは、私を駆り立てた海に対するロマンチックな想いは、失せていた。

毎日が単調な生活。

とてつもなく広い空間の中なのに、酷く狭い閉ざされた空間での生活。

毎日、決まった顔ぶれ。

不味いメシ。

自由に使えないシャワー。

毎日2交代の、規則正しい勤務。

そのうちに、日にちの感覚がなくなっていき、次に曜日、

しまいには、月の感覚がなくなっていく。

タダで海外に行けると思ったが、入港後のバカ騒ぎ。

気が付けば、慌しい船出。

だんだん、頭が麻痺してきて、つい酒を飲む。

果てしなく飲む。

酔いつぶれるまで飲む。

ニュースから切り離され、だれも自分たちの存在に気付いてくれないと思うようになる。

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「このままでいいのだろうか?」

ついに、陸(おか)に上がる決心をする。

入社試験を受けたが、面接で落とされる。

就職先が決まらぬまま、退社届けを提出。

最後の航海を終えたのが竹芝桟橋沖だった。

船から去るために、一人ランチ(艀)の最後尾に乗った。

ランチが船からだんだん遠ざかって行く。

何度か振り返って最後になった船を見ようと思ったが、私は最後まで振り返らなかった。

心の中で、スクリューの描く軌跡のかなたに、大きな白い船体が去っていくイメージを浮かべた。

もう二度と戻らない。

そんな確信を持った。

そして、それは本当になった。

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そして今、30数年経って竹芝桟橋を訪れた。

当時、最後に上陸した竹芝桟橋は大きく変わっていた。

近代的な埠頭に姿を変えていた。

対岸に、昔乗った船によく似た白い船体が係留されていた。

もうとっくにスクラップになっているのは分かりきっているのだが。

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久しぶりに、

本当に久しぶりに、

あのとき描いたイメージが心の中に浮かんだ。





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