・・・・・っということで、このシリーズはぼくの中のオヤジ像を自分なりにまとめようとして始めた。
まとめる自信もあった。
だが、書き始めて、愕然としてしまった。
実はオヤジのことを、ぼくは何一つ知らないんだという事実を前にして。
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真面目な秀才という仮面の裏に、若いときはオヤジを「兄貴」と慕うチンピラ共が出入りしていたことを母親から聞
いたことがある。
本当のオヤジの人物像を知るには、そんなディテールの積み重ねが必要だ。
だが、あまりにも手元にあるパーツが少なすぎる。
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甘やかしすぎと言ってもいいくらいの優しいオヤジしかぼくは知らない。
本人あれほどスパルタ式に育てられたにも拘らず、ぼくは一度も殴られたことがない。
そんなオヤジ。
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本人の不名誉だが、晩年浮気をしたことがある。
あの、真面目なオヤジからは想像できない位、相手は程度の低い女であった。
もちろんバレて、ぼくの母親から、いまだにそのことでいじめられている。
(ウソがヘタというのは、あながち出鱈目な話じゃないことが分かってもらえたでしょ?)
そんなオヤジ。
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会社の帰りにいつもお土産として「たい焼き」を買ってきてくれた。
子供の自分は、それが嬉しくって嬉しくって。
オヤジの手のひらを嗅いだら、いつもたい焼きの匂いがしていた。
子供のぼくは、本当にそう思っていた。
そんなオヤジ。
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若いときは、今では信じられないくらい痩せていた。
銭湯に行くと、鎖骨のところにお湯が溜まっていた。
<本当かどうかは定かではないが。>
そんなオヤジ。
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自転車の後ろで、オヤジの背中にしがみ付いて、銭湯によく通った。
風呂上りにトコロテンを食べさせてくれた。
マスタードで鼻がツーンとした記憶。
そんなオヤジ。
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高校入試を勉強していたとき、「Raid on Rommel」という映画をやっていた。
ぼくは、「ロンメルに乗っていく」という意味なんだよと、得意げにオヤジに言った。
オヤジは、ものすごっく悲しい顔をした。
ぼくは、「Ride on」と誤解していたのだ!
そんなオヤジ。
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ぼくが大学受験で深夜まで勉強していたとき、丁度オヤジも資格試験の勉強をしていた。
ぼくが、もう寝ようと思って見ると、親父の部屋はまだ明かりが灯っていた。
ぼくの方は、大学受験だぜ!
そんなオヤジ。
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こんな、オヤジについての記憶のパーツを繋げていっても、オヤジの本性には全然近づけない。
そう、息子であるぼくでさえ分からないのに、娘だったらもっと分からないだろう。
父親って、そんな存在なのかもしれない。
だって、ぼくの娘たちは、ぼくが若い頃、船乗りだったなんて、多分知らないだろう。
オヤジって、そんなものなのです。
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