・・・・・・・っということで、夫婦の形(その5)
その老夫婦は、終戦後まもなく結婚したので、かれこれ65年も一緒に暮らしていることになる。
夫には、将校だった頃の颯爽とした面影はもうとっくに無くなって、杖がないと歩けない状態である。
妻にとって嫌なことは、夫が未だに威張っていて、一寸したことに対してグチグチ言うことである。
昔は、そんな男じゃなかったのに。
正直で、真面目で、曲がったことが嫌いで、そのくせとても優しい夫であった。
だが、定年が過ぎて、することも無く家でゴロゴロする夫に我慢がならなくなってきた。
夫は公務員で、そこそこの地位まで出世したが、商才は全くといって持ち合わせていない男であった。
一方、妻の方は商人の血が濃いらしく、程なく株にのめり込んでいった。
そして、儲けた。
彼女は、年金の額よりずっと多くの収入をもたらした。
彼女が株で稼いだお金で、世界各国を旅行した。
クイーン・エリザベスで航海することもあった。
だが、もう80歳を過ぎて、海外旅行は体力的に諦めざるを得なくなった。
妻は、今でも株をやり続けているお陰か、頭は何時までもシャープだ。
夫のほうはボケてはいないが、日に日に頑固になっていく。
流石に暴力は伴わないが、毎日毎日喧嘩ばかりしている。
夫にとっての弱点は、若い頃に福岡に単身赴任していたとき、一度だけ浮気をしたことだ。
よりによって、相手は飲み屋のすれっからしだった。
それを持ち出されると、まるで切り札のジョーカーのような効果があり、黙らざるを得ないのだ。
・・・・・・・
妻は本気で思っている。
「早く夫が死んでくれないか」と。
そうすれば、ようやく自由になれる。
事実、夫が死んだ後、吹っ切れたように明るくなった友達を沢山知っている。
私が、まだ元気なうちに・・・・・・
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