・・・・・・・っということで、21年間乗った「愛車」と別れた。
最後のドライブに港北ニュータウンにある「ニトリ」に家族で行った。
普通は、246をそのまま真っ直ぐ行けばいいのに、東名高速に乗って、すぐ川崎インターで下りた。。
最後に高速道路を思いっきり走らせてやろうと思ったからだ。
「愛車」は気持ちよさそうに走った。
120km/hに加速するのに、周りを走る最新車になんら引けをとらなかった。
やっぱり、途中でエアコンが効かなくなったが、
効いたり効かなかったり。
その都度、ウィンドウを上げたり下げたり。
でも、こんな不便な作業も今日で最後だ。
・・・・・・
別れが惜しくって、ニトリからの帰りに家の近くの東急ストアに寄った。
別に買うものもないが・・・。
夕方トヨタの営業マンが引き取りにくるまで、少しでも乗っていたかったからだ。
最後は冷房がガンガンに効いた。
家に着いたとき、ガソリンはまだ2/5残っていた。
・・・・・・
クルマの室内に残っているめがねケースや小銭、ガソリンスタンドのカード、カセットテープ、
ウィンドウの曇り止めスプレー、JAF会員証、ゴミ箱、道路地図・・・・全部をビニール袋に入れって、
改めて車内を見渡した。
まるで21年前に新車で来たときと同じだった。
ガラクタを片付けたら、まだ新車の匂いが残っているなんて・・・・
これには自分でも驚いてしまった。
・・・・・・
なぜかエアコンは調子よかった。
ガンガンに冷えた。
一人リクライニングシートを倒して身体を伸ばした。
自宅の車庫にエンジンをかけたまま、ガソリンがなくなるまで、
この快適な車内に居続けたいと思った。
・・・・・・
最後に、今では旧式になったラジオを点けた。
NHKFMのクラシックをやっていた。
ベルディーのアイーダから、なんだか知らないテノールのアリアが聞こえてきた。
このクルマの最後に相応しい、悲しいアリアだった。
なぜか、あんなに調子が悪かったエアコンが、絶好調だった。
このクルマもぼくと最後の別れを惜しんでいるのだろう、・・・タブン。
・・・・・・
時間通りに、トヨタのセールスマンは家のチャイムを押した。
必要書類に、印鑑を押し、廃車料の9,620円を払った。
営業マンがぼくからキーを受け取るとき、「エンジンかかります?」・・・っと、スットンキョウな質問をした。
21年前のクルマを運転するのは、彼にとっても初めてのことかもしれない。
イラッとして「アタリマエジャネーか」と、心の中でぼくはつぶやいた。
・・・・・・
家族の者が全員、車を見送りにガレージの前に集まった。
ぼくは、最後に質問した。
「このクルマはスクラップになっちゃうんですか?」
「それとも、アフリカかどこかで余生を遅れるんですか?」
・・・・・っと。
返事は極めて明快なものだった。
「エコカー減税というものの趣旨は、効率の悪い車を廃車にするのが目的で、そのために補助金を出すものですから。」
分かっていたけれど、ぼくはこの言葉にショックを受けた。
「効率の悪い車って、このオレのクルマってことか?」
「年がら年中ガレージに泊まったままで、21年間でたったの64,000kmしか走らなかったオレのクルマが、
効率の悪いクルマだったって言うんかい?」
「いったい彼(オレのクルマのことね)が、どんだけ排ガスを出して、地球環境を汚したっていうんかい?」
「これからだって、そんじょそこいらのクルマに比べて、どんだけ環境を汚染するっていうんかい?」
「それよりも、まだまだ走れる車をスクラップにしてしまうほうが、よほどエネルギーの無駄じゃないかい?」
・・・・ってぇ考えが、頭の中を駆け巡った。
・・・・・
そしてぼくは、クルマのほうに見やった。
「完璧な機能を保っている(エアコンは別ね)この美しい彼が、来週の今頃はペシャンコにされているんかい?」
心の中で、ぼくはつぶやいた。
「ゴメンネ」
・・・・・・
営業マンに運転されながら、道のコーナーを曲がって見えなくなるまで家族全員が見送った。
ぼくは、彼が走る姿を外から見たのは、これが初めてだということに気がついた。
そして、それはぼくにとって彼の最後の姿だったのだ。
・・・ゴメンネ
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