2012年2月3日金曜日

ショートショート

・・・・・・・っということで、ショートショート。


A子は35歳独身、東京の中野のパートで一人暮らし。
就職もせず、大学生のときからのアルバイトを卒業したあともダラダラ続けている。
もちろん、生活は厳しい。
収入はアパート代で殆ど消えてしまい、食費もギリギリまで節約している。
しかしA子には絶対削れない出費がある。
それは、近所にあるフィットネスクラブの会費だ。
食費を削っても、買いたい洋服があっても、これだけは譲れない。
当然、毎日通いつめた。
最初のうちは、いいオトコにめぐり合えるかなんて、ほのかな期待を持っていた時期があったけれど、
今ではエアロビクス命だ。
A子はとてもエアロビクスが上手い。
エアロビクスをやっているときが、彼女の人生にとって最高の時間だ。

・・・・・・

彼女にはT子というジム友達がいる。
いつも二人並んでエアロビクスをしている。
T子も彼女に劣らず、エアロビクスが上手い。
彼女たちの定位置は、スタジオの最前列と決まっている。
そしてもう一人、スタジオで必ず会う一人の女性がいた。
その女性は、いつも最後尾の端でエアロビクスをやっていた。
その女性は始まる前ギリギリにスタジオに入り、クールダウンもそこそこに出て行った。
もちろん、友達はだれもいず、彼女と話す人は一人もいなかった。
とても地味な子で、いるのかいないのか存在自体が薄い子であった。
ロッカールームでも、「ねえねえ、あのいつも後ろにいる子薄気味悪いわねぇ~~」なんて会話が交わされていた。

・・・・・・

最近A子は体の調子が悪い。
胃の辺りが時々、キューっと痛くなりうずくまってしまうことが時々ある。
その日も、エアロビクスが始まる前にそんな状態になってしまった。
顔面蒼白になってうずくまるA子にT子は驚き、お医者さんに行って来たらと強く勧めた。
でも、A子は病院には行かなかった。
しばらくすると、すっかり治ってなんともなく元気になるからだ。
だいいち、病院に行くお金がもったいなかった。

・・・・・・

しかし、その痛みに襲われる間隔はだんだん短くなって、ものをろくに食べられなくなってしまった。
A子の体はみるみる痩せていった。
それでも、エアロビクスだけは毎日欠かさず出ていた。

・・・・・・

ある日、A子がエアロビクスを終え、フィットネスクラブを出たところであの女性と出会った。
A子は前を歩くその女性に追いつき、思い切って話しかけてみた。
その女性は見かけとは正反対で、とても明るく楽しい人だった。
住んでいるところも、A子のアパートのすぐ近くだった。
翌日ロッカールームでT子にそのことを話すと、
「へぇ~そうなんだ。でも、最近彼女スタジオにゼンゼン来ないねぇ~」と言った。
A子はアレェ?っと思った。
今日だって、いつものように彼女はスタジオの一番隅っこでエアロビクスをやっていたのだ。
T子は気付かなかっただけなのだ。

シャワーを浴び、フィットネスクラブを出ると思いがけず彼女が待っていた。
帰り道は昨日以上に会話が弾み、A子が思い切って自分の部屋に招くとすんなりとOKしてくれた。
その夜は体の調子もよく、久しぶりにビールを飲んで遅くまで一緒に盛り上がった。

・・・・・・

ところがその日以来、T子が口をきいてくれなくなってしまったのだ。
A子が話しかけても、完全無視を決め込む。
あの女性と付き合っていることが気に食わないのだろうか。
他の会員からもA子は無視されるようになった。
A子はすごく腹が立った。
T子が他の会員を巻き込んで、A子を無視するように申し合わせているのだ。
そんなにあの女性と付き合うことがイヤなのだろうか。
本当はとてもいい人なのに。
皆はそれを知ろうともしないのだ。

・・・・・・

そんな状態がしばらく続いた。
何故かその女性もエアロビクスに参加しなくなってしまった。
「たぶん、私がそんなイジメにあっているのは、自分のせいだと思い、彼女は遠慮して出て来ないのだ。」
とA子は思った。
不思議なことに、A子の胃の痛みがなくなり、毎日絶好調でフィットネスクラブに通っていた。

・・・・・・

そんなある日、いつものようにA子はスタジオでエアロビクスに参加していた。
レッスンが始まってしばらくすると、後ろのドアからその女性がそぉ~~っとスタジオに入ってきた。
前の鏡でA子はそれを確認した。
ああ、やっと来てくれた。
今日こそは、T子に彼女を紹介して、彼女がどんなに素晴らしい女性であるか証明してやろう。
A子の顔には笑顔が浮かんだ。
レッスンが終わるのももどかしく、後ろにいるその女性に駆け寄り手をとって、T子に紹介したいと言った。
だけれども、その女性は微笑むばかりで動こうとしない。
その代わり、後ろの鏡に振り返り自分の姿を指差した。
驚いたことにそこには彼女の姿が映っていなかったのだ。
そして、A子を真っ直ぐ見つめると、A子にも鏡を見るように促がした。
恐る恐る鏡を見ると、A子の姿はどこにもなく、そこには帰り支度でざわついている会員たちの姿だけが映っていたのだ。

・・・・・・

T子は最近A子がスタジオに全く顔を出さないことを心配していた。
ちょっと遠回りになるけれど、フィットネスクラブを出たあと、A子のアパートを訪ねてみることにした。
彼女の部屋で発見したものは、床に転がったビールの空き缶と、骨と皮になったA子の変わり果てた姿であった。

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