・・・・・・・っということで、その子は目立たない子だった。
ウェアも地味で、化粧ッ気もなく、誰とも話さず、スゥ~っと来ていつの間にか帰っていた。
エアロビクスが好きなようでほとんど欠かさず出ていた。
でも、最近見かけなくなっていた。
・・・・・・
ぼくは右大臣席が好きで、大体の人数が揃うと、前の鏡を観ながら人数を確認するクセがある。
にぃ~しぃ~ろぉ~やぁ~・・・今日は十一人かぁ~。
あれぇ~オカシイなぁぼくの後ろに黒いシューズが映っている。
抜かしてしまったかぁ。
もう一度数えなおし、
にぃ~しぃ~ろぉ~やぁ~・・・やっぱ十一人。
でも、どうしてもぼくの後ろにもう一人隠れているような気がする。
ちょいと横にずれて確認してみよう。
ぼくが横に移動すると、その人物も移動するような気がする。
鏡だと分からないから、振り向いて確認すると、やっぱり誰もいない。
・・・・・・
ウォーミングアップが大体終わるころ、スタジオの外から様子を窺っている「彼女」が鏡に映る。
ああ遅刻しちゃったんだ。
いまからでも遅くないから入室しちゃえばいいのにと、振り向くと誰もいない。
・・・・・・
エアロビクスも佳境に入って、ぼくはいつものように足捌きを覚えるのに必死だ。
すると、スタジオの後ろで踊っている「彼女」が視界の片隅に入る。
そうか、やっぱり入室したんだ。
鏡に映して確認すると、そこにいるのは彼女とは別の女性だ。
彼女がいつも着ていたのと同じ黒のTシャツとグレーのハーフパンツだから見間違ってしまったのだ。
・・・・・・
給水タイムになって、ボトルの水を飲む。
何かが舌に絡まった。
どうも、髪の毛らしい。
こんなに髪の毛が薄くなったのに、まだ抜けるのかよぉ。
勘弁してくれよぉ~っと、舌に絡まった毛を指で摘まむ。
だが、変だ。
自分の髪にしては長すぎる。
どんどん出てくる。
喉の奥の方からどんどんと・・・・。
・・・・・・
今年は節電ということで、スタジオ内の冷房も控えめだ。
インストラクターもそうするようにクラブ側から指導されているらしく、なかなか温度を下げようとしない。
みな汗だくだ。
「いま暑い人ぉ~」っとインストラクターが言うと、ほとんどの人が手を挙げた。
エアコンの調整をしようとしたとき、スタジオの後ろから悲鳴が上がった。
「寒すぎるんですけど!!」
全員が振り返ると、そこには顔面を蒼白にしてガタガタ震えながらうずくまる会員が一人。
その場所は「彼女」の定位置だったのだ。
・・・・・・
レッスンが終わり、隣の名人に、
「ほら、いつも来ていた目立たない子でさ。長い髪を後ろにまとめていて、後ろのほうで踊って
いた子。最近見かけないネェ~」
と、聞いてみた。
「エッ?FLさん知らなかったのぉ?彼女、海で溺れて亡くなっちゃったのよ。」
・・・・・・
全て架空の物語であって、実在の人物とは全く関係がないことお断りします。
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